位置決めの基本的な概念
機械技術の最も基礎的な概念となる物体の拘束、位置決めの考え方についてここで解説していくことにする。
位置決めは機械設計者にとって最も基本的で必要不可欠な知識であるため、この概念をしっかりと理解しておく必要がある。
6自由度拘束
部品を動かないように位置決め、固定するということは、物体の6自由度を拘束するということと同義となる。物体には直進方向X、Y、Z、回転方向Wx、Wy、Wzの計6自由度存在する。
まずは最も概念的にわかりやすいモデルを図で示す。物体が6つの方向から球で接触し固定されている。具体的には、鉛直方向であるZ、Wx、Wy方向を拘束下からの3点で拘束しており、X方向の1点でX方向、Y方向の2点でY方向とWz方向を拘束している。これにより6自由度を過不足なく拘束していることになる。
1自由度でも不足するとその方向に自由度が残っていると、1方向は固定されていない、つまり、動ける=位置が定まらず不安定ということになる。この考え方は、再現性が高く高精度な位置決め、結合時に変形が伝わりにくい設計を行うための基本となる。
球による点接触ではなく、平面同士の結合を考えてみる。
平面といっても実際にものを製造してみると、誤差を含んでいる。
平行度、直角度、高さ差が少なからずある。
極端な例を下の図で示す。球で接触していた場合のZ方向の3点を、誤差の持った平面板と置き換えたと思って想像してほしい。
下右図の通り、上板は締結後にゆがめられてしまうのは明らかとなる。
これらの部品の締結で、ゆがみを抑えて、再現性を向上させた場合の例を次の図で示す。結合部の面積を小さくして、3つの足の段差をなるべく小さく(加工精度を上げる)してある。
※足の上部を球体にしてあげると、3つの足の段差が大きくてもゆがみは抑えられるが、ここではあくまで平面で締結する例として示している。
つまり、面同士の締結で精度が悪い多い場合は、6自由度以外の拘束が発生しており、それがゆがみを引き起こしているということになる。
言い換えれば、ゆがみなく締結するためには、最初の図で示すような球で6点のみの締結にすることが必要ということになる。たとえ上板の下面平面度が悪くても締結時に上板自体がゆがめられることはない。このゆがみが多い場合は、それが再現しにくく、位置決め再現性の劣化にもつながる。
平面上での位置決め
理想的には球を用いて点接触で6自由度を拘束するのが望ましいが、機械設計の自由度や使い勝手を考慮すると、もっとシンプルな構成で位置決めできる構成を装置には適用したくなる。
ピンと長穴
そこでピンと長穴を利用した方法を紹介する。突き当てる必要はなく、ピンに沿って部品を差し込めば短時間にお互いの相対位置が決まる。平面同士で鉛直方向(赤矢印3方向)を拘束し、ピンと穴で水平直行2軸方向(緑矢印)、ピンを中心に回転する方向(青矢印)を拘束する。
もちろん完璧ではない。ピンと穴はある程度の隙間が必要(例えばピンg、穴H嵌め合い)であり、位置再現性はある程度劣化する(例えば10um以上レベル)ことは受け入れる必要がある。
3ピン突き当て
次の例も一般的に利用される構成であり、2つのピンに部材の平面を突き当てた状態で、残りの1つのピンを直角部を突き当てるタイプだ。こちらは上の長穴タイプに比べて突き当て部は増えるが、それよりも隙間が生じにくいため、大きさや構造にもよるが、小型の精度部品であれば5um以下レベルの再現性が実現できる。
またこの構造の場合は、きちんとピンと壁が接触しているかどうかを目視や、薄いシムシートやシックネスゲージで確認できるところだ。
ピン突き当て再現性が出ないのはなぜ? どうしたら改善する?
一般的な位置決め手法である、部品をピンに突き当てた後にボルト締結する場合を考えてみる。部材を高精度に位置決めしたいが再現性が悪い。
どこに原因があるのだろうか。上記注意点と多少重複するが、改めてここで改善方法(テクニック)をまとめておくので再現性が悪い場合以下の項目を見直してみよう。
改善アイテム
- 突き当てピンを短くする: ピンが長いと突き当て力によってたわむので短くしてたわみを少なくする。
- 突き当てピンを太くする: ピンが太いと突き当て力によってたわむので太くしてたわみを少なくす
- 突き当てピン圧入による隆起を防ぐ: 圧入(ピン径がピン穴に対して大きく、打ち込む方式)では、ピン挿入部が変形して浮き上がるので、ピン穴の口元に大きめの面取りを施しておく。
- ピンまたは突き当て部材の摩耗を減らす/硬くする: 繰り返し突き当てるので場合によっては金属同士がこすれて摩耗し、再現性が悪化する。アルミや生材(鉄)から焼き入れ材(S45C、SUS440など)や硬質材(タングステン)に変更することで改善する。樹脂などの柔らかい部材であれば硬めの金属等に置き換える。
- 突き当て部材の重心を見直す: 重心バランスが悪いものを突き当てようとすると、人力でサポートしながら突き当てる必要がある。例えば手を離すと突き当てから離れてしまうような部材だと再現性が劣化する。無負荷でも位置が安定するような状態から突き当てられるように重心バランスを考慮する。
- 平面度、表面粗さを向上させる: 平面度、表面粗さが悪いと、わずかな位置ずれで接触点が変化するため位置も変化してしまう。必要精度に応じて表面粗さ、平面度等の加工精度を見直すことが必要である。
- 突き当て部の接触面積を減らす: 突き当て部が面で当たっている場合は、部品誤差により精度が劣化しやすい。球体にするなどで点接触に近づけると安定する。
- 摩擦力を減らす: 平面の上に突き当て部材を置いて、それをピンに突き当てる場合は、摩擦が大きいと突き当てが困難だ。重量物や摩擦係数の大きい部材などではこの問題が発生する。対策としては、摩擦力を減らすために、潤滑油を使う、浮上させた状態で突き当てる、部材を見直す、コーティングをするなどがある。
- 結合時のモーメントを考慮する: ボルト締結も位置が決まるまでにボルトと座面に摩擦が生じ、回転する方法に力がかかる。座金挿入、小径ボルト使用、ボルト数を増やす、締め付けを少しずつ行う(数回に分けてボルトを回す)、部材が回らないように手や工具で固定する。
- 締結順番を決める:ボルトの締結順番が異なると、ボルト締結時の位置ずれ傾向が異なる。毎回同じ順番で締め付ける方が再現性は高くなる。手順書などで締め付け順番を指定する。
- 締結力を管理する。:トルク締めは基本となる。もっと向上させたいのであれば、ボルトよりもばね予圧など厳密に予圧を管理できる方法が望ましい。ボルト部にも潤滑油を用いることでも締め付け力の再現性は高まる。
- 締め付け後のチェックをする:ピンと部材の隙間が生じているか、10umのシムやシックネスゲージで確認し、隙間があるようであれば再度固定しなおす。厳密に管理する場合は変位センサを用いた工具などで位置ずれを確認する必要がある。
- 熱膨張を考慮する:熱により変形している場合は、温度が変化すると再現性が出ない。温度管理を徹底するか、熱変形しにくい材質にするか等の温度への影響を小さくする方法が必要。
4点支持と3点支持 設計例
もう少し分かりやすい例をあげてみる。
4点支持
4点支持で傾きと高さ調整をする場合をそれぞれ想像してみよう。初期状態として足1、3、4が接触している状態(これは見た目では判断できないが通常は4点のうちいずれかの3点しか接触していない)から、足1を徐々に下げていくと、足1は板から離れ、足2が接触するようになる。
つまりこの瞬間に足1起因の高さから足2起因に切り替わる。これは連続的な変化ができなくなることを意味し、調整しているときはどっちの足が接触しているのかわからない。
これでは狙った通りの高さや傾きに調整するのが困難になる。この例では予圧がないので傾きが変化するのだが、足に隙間が生じないように予圧を付与していたとすると傾く代わりに、ゆがみが(変形)が生じることになる。
3点支持
次に3点支持の場合を見てみると、常に接触点は安定して離れることはない。足高さの変化させた量だけ板の位置/傾きも追従して変化する。 予圧をかけていたとしてもゆがみを生じさせることはない。
工具設計例
次に、精密に高さと角度(チルト)を調整したい場合の簡単な工具の設計例を示してみる。
足はマイクロジャッキで三角の板で支える。剛性は不要として単純に自重で点に載っているだけだが、組立を容易にかつ落下防止の観点で板の裏側に凹部をもうけておく。
マイクロジャッキはメモリ10um程度のものは市販されているので、これを用いると、1か所ずつ手動でスムーズに高さを調整できるので、実験などに利用しやすいだろう。この構成で外部センサなどを追加すれば、1umレベルの位置合わせも可能になると思う。
これらの設計モデルはFusion360 を使用して作成しています。興味があれば以下からアクセスしてチェックしてみてください。
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